第5章:災害時の健康管理
保健(保健・精神)、医療、福祉・介護

災害対応を効果的に行うためには、保健(保健・精神)、医療、福祉・介護の三分野が連携し、それぞれの役割を果たすことが不可欠です。これらの活動を支えるために、様々な情報共有・管理システムが活用されます。

1. 保健(保健・精神)の役割

保健分野は、被災地の公衆衛生の維持と被災者の心のケアを主な役割とします。また、保健師は、これらの活動を通じて、行政と被災者の橋渡し役となり、地域住民の健康の視点を災害対応全体に組み込む役割を果たします。

役割

  • 公衆衛生管理: 避難所や仮設住宅における感染症の予防、食中毒対策、衛生指導、環境衛生(トイレ・ごみ処理)の確保。
  • 健康状態の把握: 慢性疾患を持つ被災者や要配慮者の状況把握、健康相談、巡回健診。
  • 精神保健(心のケア): 災害ストレス、PTSD(心的外傷後ストレス障害)などに対する専門的な相談・支援、介入、活動拠点でのメンタルヘルス支援。
  • 保健所機能の維持: 被災した保健所の機能を代替・支援し、上記活動の拠点となる。

2. 医療の役割

医療分野は、負傷者や急性期の重症患者への対応、そして医療機能の維持・回復を担います。生命の維持、健康の維持を行い、防ぎえた災害死、災害関連死を防ぎます。

役割

  • 救命・トリアージ: 発生直後の負傷者に対する救急医療、トリアージ(治療優先順位の決定)、応急処置、高次医療機関への搬送。
  • 医療提供: 被災地の病院・診療所、救護所、巡回診療による医療の提供。
  • DMAT活動: 専門的な医療チームによる広域医療搬送や、病院の機能維持・支援、救助現場での医療提供、患者搬送など。
  • 医薬品供給: 医薬品や医療物資の確保・供給・適正な配分。

3. 福祉・介護の役割

福祉・介護分野は、特に支援を必要とする要配慮者(高齢者、障がい者、乳幼児など)の生活支援と介護サービスの維持・再開、フレイルの予防などを担います。

役割

  • 要配慮者支援: 避難所における生活環境の改善、福祉避難所の設置・運営、食事や排泄、入浴などの介助、福祉用具の提供。
  • 介護・障がい福祉サービスの継続: 被災した高齢者施設や障がい者施設の支援、在宅サービスの再開に向けた調整。
  • 安否確認: 独居高齢者や在宅の要配慮者の安否確認とニーズ把握。
  • 福祉専門職の派遣: DWAT(災害派遣福祉チーム)などの専門チーム派遣・調整。

4.災害対応における使用可能な情報管理システムやアプリの紹介

主要なシステム(アプリ)

広域災害救急医療情報システム:(EMIS:Emergency Medical Information System)

  • 目的:
    厚生労働省が管理・運営する災害時救急医療情報システム。被災地および周辺の医療資源(病院)の状況をリアルタイムで把握することが主目的です。
  • 機能:
    病院の被害状況(建物損壊、ライフライン、病床数、稼働状況)、医療従事者の出勤状況、受け入れ可能な患者数、必要な医療物資などの情報を、病院側が入力し、国や自治体、DMATなどの医療調整本部に共有します。これにより、傷病者の適切な搬送先を決定し、医療資源の偏在を防ぎます。

J-SPEED

  • 目的:
    災害発生時、被災地で活動する災害医療チーム(DMAT、JMAT、日赤救護班など)が使用する標準的な診療日報を提供し、情報のバラつきを解消することです。これにより、本部は「どこに・どのような傷病者が何人いるか」をデータに基づいて把握し、保健医療調整を迅速に行うことを目指します。
  • 機能:
    紙様式を前提としつつ、スマートフォンアプリやウェブサイトによる電子運用も可能です。これにより、報告の即時集計や遠隔報告、本部でのデータ解析の効率化が図られます。J-SPEEDは、災害時の混乱下で、医療チームの活動情報を標準化し、電子化を通じて迅速に集約することで、データに基づく効率的な医療支援の調整(コーディネーション)を実現するためのシステムです。

災害時保健医療福祉活動支援システム :D24H

  • 目的:
    災害発生後の広域的な保健医療ニーズを迅速に把握し、対応状況を管理するシステム。主に保健所や自治体(都道府県・市町村)の保健部門、そしてDMAT(災害派遣医療チーム)やJMAT(日本医師会災害医療チーム)などの広域支援チームが使用します。
  • 機能:
    避難所ごとの巡回状況、健康相談件数、発生した感染症や食中毒などの情報を入力・共有し、公衆衛生上のリスク評価や、必要な保健師・薬剤師などの配置調整に活用されます。

Shared Information Platform for Disaster Management: SIP4D

  • 目的:
    分野横断的な情報共有と地理空間情報(GIS)を活用した意思決定を支援するプラットフォーム。内閣府などが中心となり運用されています。
  • 機能:
    被災状況(道路、インフラ)、避難所の開設状況、ライフラインの復旧見込みといった基本情報を地図上に統合表示します。
  • 利用:
    上記の保健、医療、福祉の各分野の情報(EMIS、D24H、J-SPEEDから集約されるデータ)を重ね合わせることで、例えば「医療機関へのアクセスが困難な地域に、特に要介護高齢者が集中している」といった状況を視覚的に把握し、優先順位の高い支援地域を特定する意思決定に活用されます。

まとめ

これらの情報システムは、被災者一人ひとりの健康と生活を守るために、現場の見えないところで支援を支えています。